徳島新聞 女性クラブ

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お知らせ

2014年5月21日水曜日

徳島新聞女性クラブトークショー:岸惠子さん

「好奇心を持ち続ける限り若くいられる」と話す岸さん=徳島市のアスティとくしま

2014/04/11付 徳島新聞朝刊暮らし面掲載

徳島新聞女性クラブトークショー
理想と好奇心を大切に女優業の半生 苦労明かす岸惠子さん

徳島新聞社が創刊70周年記念事業として発足させた女性向け会員制クラブ「徳島新聞女性クラブ」。初のトークショーが徳島市のアスティとくしまで開かれ、女優で文筆家の岸惠子さんが、40年余りに及ぶパリでの生活など自身の半生を語った。(高崎扶美子)

■映画出演
 人生には、ある日ふと自分を驚かせる何かが起きることがある。私にとってはジャン・コクトーの映画「美女と野獣」。恐ろしい野獣の美しくて切ない目が印象に残り、「映画はどうやって撮るのだろう」と考えた。松竹大船撮影所所長をおじに持つ友人に誘われ、撮影を見学した。 初めて見た撮影用カメラの黒くて大きなレンズは生き物のようで、私はこの生き物とずっと関わっていくと予感した。厳格な父の反対を押し切って、1本だけとの約束で出演したのが映画「我が家は楽し」(1951年)。その大ヒットをきっかけに女優人生が始まった。

■レッテル
 一度張られたレッテルはなかなかはがしてはもらえない。映画「君の名は」3部作(53〜54年)がヒットすると、真知子のイメージがいつまでもつきまとった。文章を書いて「メロドラマ女優にこんな文章が書けるわけがない。ゴーストライターがいるんだろう」と言われたこともある。大ヒット映画に出られて光栄だったが、その裏で私は非常にダメージを受けた。
 ベタベタとレッテルを張られると、皮膚呼吸ができず窒息するような感覚になる。このままでは壊れてしまうと思っていた56年、日仏合作映画「忘れえぬ慕情」に出演し、後に夫となるイヴ・シャンピ監督に出会った。監督は私を普通の女性として扱い、「日本だけじゃなく、世界中を見て知ったほうがいいよ」と言ってくれた。息苦しい部屋の窓が開いて春風が入ってきたような気分になった。

■渡仏生活
 フランスは階級社会ではないとはいえ、知識人や大衆、労働者と、話す言葉は変わる。私は学校や家庭教師、シャンピ家のお手伝いさんなどからフランス語を教わり、猛勉強した。20人くらいの正式なディナーに呼ばれたとき、帰りがけにふさわしくない言葉であいさつをしてしまった。そういう失敗をたくさん重ねてフランス語は上達した。言葉ができなければ、その地に暮らすことはできない。やる気になれば何でもできるのだと実感した。

■座右の銘
 マッカーサーが座右の銘にしていたという詩人サミュエル・ウルマンの詩「青春」は、私が常に考えていることと通じている。「人は信念と共に若く 疑惑と共に老ゆる。人は自信と共に若く 恐怖と共に老ゆる。希望ある限り若く 失望と共に老い朽ちる」。歳を重ねただけで人は老いない。私の言葉を付け足すなら「理想と好奇心を失うときに人は老いる」。好奇心を持ち続ける限り、若くいられる。

■小説執筆
 テレビなどで、認知症や終末期などで体に管を付けられ、赤ちゃん言葉で話し掛けられている高齢者を見る。痛々しく、高齢者が生きていることを申し訳なく感じるような場面に怒りを覚える。人生の終盤に、虹のかかるような素晴らしい経験をすることがあってもいいのではないかと考え、4年かかって高齢女性の恋をテーマにした小説「わりなき恋」(2013年)を完成させた。
 私は本職の物書きにはなりたくない。心に何かが満ちてきて、どうしても書きたいと思ったときに書く。これからの人生はものを書いていこうと思う。これまで一般の日本人女性が経験できないさまざまな苦労をし、その苦労を身に付けてきたからこそ、それを書いていきたい。